インド
広大なインドでは、地域によって魚の扱い方が大きく異なります。特に川魚を愛する東部の西ベンガル州と、海魚とココナッツを多用する西部のゴア州では、全く異なるスパイシーなねりもの文化が発展しました。

マチェル・チョップ(Macher Chop / ベンガル風フィッシュクロケット)
【メイン原料】: ルイ(鯉の仲間)などの白身魚(+ジャガイモ、ガラムマサラ、マスタードオイル)
【特徴】: 東インド・コルカタの街角で愛される、ストリートフードの王様です。イギリス統治時代のクロケット(コロッケ)がベンガル風に超進化したもので、茹でてほぐした魚の身に、マッシュポテトと強烈なスパイスを練り合わせて俵型にし、パン粉をつけてサクサクに揚げます。魚の旨味とマスタードオイルのツンとした香り、そしてガラムマサラの辛味が渾然一体となっており、夕方にチャイ(紅茶)と一緒に楽しむ最高のスナックです。

ゴア・フィッシュ・クロケット(Goan Fish Croquettes)
【メイン原料】: サワラなどの海魚(+ターメリック、パクチー、ビネガー)
【特徴】: アラビア海に面した西インド・ゴア州の名物です。ポルトガルの植民地だった歴史から、魚のすり身にポルトガル由来の「ビネガー(お酢)」を効かせるのが最大の特徴。スパイスの辛さの中に、お酢の爽やかな酸味が加わることで、非常に洗練された味わいのフィッシュケーキになります。外側はセモリナ粉をつけてカリッと揚げてあり、ビールやワインのお供として絶大な人気を誇ります。
スリランカ
インド洋の真珠と呼ばれるスリランカは、カツオやマグロなどの大型の海魚をよく食べます。ここで発達したのが、紅茶の文化に寄り添う「ショートイーツ(軽食)」としてのねりものです。

フィッシュ・カトレット(Fish Cutlets / スリランカ風スパイシーツナボール)
【メイン原料】: ツナ(マグロ)やサバのすり身・ほぐし身(+ジャガイモ、カレーリーフ、黒コショウ)
【特徴】: スリランカの街中のベーカリーや屋台で必ず売られている国民的な「丸いねりもの揚げ」です。魚の身に、スリランカ料理の命であるハーブ「カレーリーフ」と青唐辛子、そして大量の黒コショウを練り込み、ピンポン玉サイズに丸めて揚げます。見た目は可愛い一口サイズですが、噛むとガツン!と目が覚めるような強烈なスパイスの辛さと魚の旨味が飛び出してきます。
バングラディッシュ
ガンジス川の恩恵を受けるバングラデシュは、南アジア屈指の「川魚大国」です。日本のつみれに近い、魚の身を徹底的に叩いて弾力を出す本格的なすり身技術が存在します。

チトル・マチェル・ムイタ(Chital Macher Muitha / ナイフフィッシュのスパイス魚団子)
【メイン原料】: チトル魚(ガンジスナイフフィッシュ)(+玉ねぎ、青唐辛子、クミン、生姜)
【特徴】: バングラデシュにおける「真のすり身団子」と呼べる最高級の伝統料理です。小骨が非常に多いチトル魚の身をスプーンで削り取り、包丁で何度も叩いて滑らかなペースト状にします。そこに各種スパイスを練り込み、手でギュッと握って団子状(ムイタ)にして熱湯で茹で上げます。弾力のあるこの魚団子を、トマトとマスタードオイルが効いた濃厚なカレーソースで煮込んで食べる、結婚式やお祝いの席には絶対に欠かせないごちそうです。
パキスタン
イスラム教の戒律のもと、肉食文化(羊や鶏のケバブ)が圧倒的に強いパキスタンですが、アラビア海に面した南部の巨大都市カラチなどの沿岸部では、スパイスを極限まで効かせた「魚のミンチ料理」が独自の発展を遂げています。

マチュリ・ケバブ(Machli Kebab / 魚のスパイスハンバーグ)
【メイン原料】: タラ、ティラピア、現地の海魚などの白身魚(+ベサン粉、青唐辛子、クミン、コリアンダー)
【特徴】: 「ケバブ=肉」という常識を覆す、魚のすり身で作ったスパイシーなパティ(ハンバーグ)です。茹でてほぐした魚、あるいは生のミンチに、つなぎとして「ベサン粉(ひよこ豆の粉)」を使用するのがパキスタン流の特徴。そこに大量の刻んだ青唐辛子、クミン、コリアンダーシード、ガラムマサラを練り込み、平たい円形にして多めの油で揚げ焼き(シャローフライ)にします。外側はひよこ豆の粉のおかげでサクッとしており、フレッシュなミントとヨーグルトのソース(チャツネ)をつけて食べます。

マチュリ・コフタ(Machli Kofta / 魚のスパイス肉団子カレー)
【メイン原料】: 魚のミンチ(+ケシの実、ココナッツ、フライドオニオン)
【特徴】: 「コフタ」とは中東から南アジアにかけて広く食べられているミートボールのことですが、カラチなどの沿岸部ではこれを贅沢に魚のミンチで作ります。すり身の中に、コク出しとして「ケシの実のペースト」や「ココナッツ」、そして甘みを出したフライドオニオンを練り込んで丸めます。これを素揚げし、トマトやヨーグルトをベースにした濃厚でスパイシーなグレイビー(カレーソース)の中でじっくりと煮込みます。