タイ

タイのねりものは、強烈な弾力(現地の言葉で「デーン」と表現されます)と、ハーブやスパイスを練り込む文化が特徴です。屋台の麺料理からレストランの前菜まで幅広く活躍します。

トードマンプラー(Tod Mun Pla / タイ風さつま揚げ)

【メイン原料】: ナイフフィッシュ(ナギナタナマズ)などの白身魚(+レッドカレーペースト、バイマックルー、インゲン)

【特徴】: 世界で最もスパイシーで香り高いさつま揚げです。魚のすり身に、レッドカレーペーストと細かく刻んだ「バイマックルー(こぶみかんの葉)」、そして食感のアクセントになるインゲン豆をたっぷりと練り込んで揚げます。噛んだ瞬間に柑橘系の爽やかな香りとカレーの辛味が爆発し、甘くて酸っぱいスイートチリソース(ナムチム)をつけて食べるのが最高にビールに合う逸品です。

ルークチンプラー(Look Chin Pla / タイ風魚団子)

【メイン原料】: サワラ、エソ、イトヨリダイなどの白身魚

【特徴】: タイの屋台麺(クイッティオ)に絶対に欠かせない、ピンポン玉のような魚団子です。日本のつみれとは違い、小麦粉などを極力減らし、魚のタンパク質を限界まで練り上げることで、ゴムボールのように跳ね返る強烈な弾力を生み出します。あっさりとしたクリアなスープに浮かべたり、甘辛いタレをつけて炭火で炙ったりと、タイの日常に完全に溶け込んでいます。

ベトナム

フランスの食文化と中国の食文化が交差するベトナムですが、魚のすり身(Chả / チャー)に関しては、素材の味を極限まで引き出す職人技が光ります。

チャーカー・タックラック(Chả Cá Thác Lác / ナギナタナマズのさつま揚げ)

【メイン原料】: タックラック(Thác Lác / タークラック、ナギナタナマズ)

【特徴】: ベトナム南部(メコンデルタ地方)を代表する高級ねりものです。「タックラック」という非常に旨味が強い淡水魚の身をスプーンで削り取り、すり鉢で気が遠くなるほど長時間叩いて粘りを出します。味付けはヌックマム(魚醤)とたっぷりの黒コショウ、ディル(香草)のみ。弾力が強すぎて「壁に投げると跳ね返る」と例えられるほどの歯ごたえが自慢です。

チャームック(Chả Mực / ハロン湾名物イカすり身揚げ)

【メイン原料】: コウイカ(+豚の脂身、ヌックマム)

【特徴】: 世界遺産ハロン湾の特産品としてベトナム全土で有名な「イカのねりもの」です。新鮮なイカを機械を使わずに石臼と杵で手作業で叩き潰すのが伝統的な製法。イカの身の塊をあえて残すことで、すり身のプリプリ感とイカのコリコリ感が同居する奇跡の食感を生み出します。ベトナムの「アジアの記録に残る美味しい郷土料理」にも選出された傑作です。

チャオ・トム(Chạo Tôm / エビすり身のサトウキビ巻き焼き)

【メイン原料】: エビのすり身(+ニンニク、少量の豚肉ペースト)

【特徴】: 中部フエ発祥の伝統料理です。新鮮なエビを徹底的に叩いて作ったペーストを、短く切った「サトウキビの棒」に巻きつけて蒸し、さらに炭火で香ばしく焼き上げます。エビの濃厚な旨味に、芯になっているサトウキビの自然な甘い果汁が熱でじんわりと染み込み、非常に上品で奥深い味わいになります。サトウキビからすり身を外し、新鮮なハーブと一緒にライスペーパーで包んで食べるのが絶品です。

インドネシア

赤道直下の島国インドネシアでは、魚の保存食として発達したねりものが、豊富な「タピオカ粉(サゴでんぷん)」と結びつき、世界でも類を見ない独特の食感を生み出しています。

ペンペック(Pempek / スマトラ風揚げかまぼこ)

【メイン原料】: テンギリ(サワラの仲間)などの白身魚(+大量のタピオカ粉)

【特徴】: TasteAtlasが発表する「世界のシーフード料理ランキング」において、並み居る海鮮料理を抑えてトップクラス(時期によっては世界1位)にランクインした実績を持つ、国際的な評価も非常に高いソウルフードです。魚のすり身に大量のタピオカ粉を混ぜて茹でた後、高温の油でカリッカリになるまで揚げます。「チュコ(Cuko)」と呼ばれる、パームシュガー、タマリンド、唐辛子で作った「黒くて甘酸っぱく、強烈に辛いタレ」にどっぷり浸して食べるのが最大の特徴です。

オタオタ(Otak-otak / 魚すり身のバナナの葉包み焼き)

【メイン原料】: サワラなどのすり身(+ココナッツミルク、レモングラス、ガランガル)

【特徴】: インドネシアだけでなくマレーシアやシンガポールでも広く食べられている伝統的なねりものです。すり身にココナッツミルクとたっぷりのスパイス(エシャロット、ターメリックなど)を混ぜ込み、バナナの葉で細長く包んで炭火で蒸し焼きにします。バナナの葉の香ばしい香りと、ココナッツミルクのまろやかさ、スパイスの風味が一体となった、南国らしさ全開のねりものです。

マレーシア・シンガポール

広大なインドでは、地域によって魚の扱い方が大きく異なります。特に川魚を愛する東部の西ベンガル州と、海魚とココナッツを多用する西部のゴア州では、全く異なるスパイシーなねりもの文化が発展しました。

クロポック・レコール(Keropok Lekor / トレンガヌ風・魚のソーセージ)

【メイン原料】: ニシンやイワシなどの近海魚(+サゴでんぷん)

【特徴】: 東海岸トレンガヌ州の絶対的な名物です。魚のすり身にサゴでんぷんを練り込み、長くて太い「ソーセージ」や「縄」のような形に成形して数時間茹で上げます。これをぶつ切りにして高温の油で揚げ、甘辛い特製チリソースをつけて食べるのが定番スタイル。外はカリッと、中はモチモチとした弾力があり、噛むほどに魚の野性味あふれる風味が広がる国民的おやつです。

ヨントーフ(Yong Tau Foo / 醸豆腐)

【メイン原料】: エソ、サワラなどのすり身(+豆腐や各種野菜)

【特徴】: もともとは中国客家(ハッカ)の料理ですが、シンガポールやマレーシアの屋台で大進化を遂げた「南国風おでん」のような存在です。豆腐、ナス、ゴーヤ、唐辛子などの切り込みに、魚のすり身をたっぷりと詰め込んでいます。屋台の店先に並んだ数十種類の具材から好きなものをボウルに選び、クリアなスープで茹でてもらい、甘い海鮮醤(ホイシンソース)やチリソースをつけて食べる、非常にヘルシーで楽しいねりもの料理です。

フィリピン

スペインや中国の食文化が混ざり合うフィリピンですが、街角のストリートフード(屋台料理)において「魚のすり身」は絶対的な主役です。夕方になると街中に屋台が現れ、人々が群がる光景はフィリピンの日常そのものです。

キキアム(Kikiam / 海鮮と豚肉の五香湯葉巻き)

【メイン原料】: 魚のすり身、エビのすり身、豚ミンチ(+五香粉、玉ねぎ、湯葉)

【特徴】: 中国福建省からの移民が持ち込んだ「五香巻き(ンゴーヒアン)」がフィリピンで独自に進化した、ジャンクで旨味の強いねりものです。魚やエビのすり身に豚肉のミンチを混ぜ、中国のスパイスである五香粉(ウーシャンフェン)をしっかりと効かせます。これを大豆から作った薄い湯葉(ビーンカー)でソーセージのように細長く包み、一度蒸してから高温の油でカリカリに揚げます。食べやすいサイズに斜め切りにして提供され、海鮮の風味と豚肉の脂、スパイスの香りが混ざり合う、非常に食べ応えのある一品です。